本書の取材中、幸運な出会いが何度もあった。
現在94歳になられている小田野柏氏との出会いもその一つだ。
取材当時は92歳だったけれど、小田野氏は記憶も確かで、
話もきちんとしていて、本書の取材に大きく貢献してくれた。
さらにとっても役に立ったのが、メモ魔でもある小田野氏は、
当時の資料類をとても丁寧に保管されていたことだった。
このブログの9月16日付で書いた、当時の経営台帳と同様に、
小田野氏が保管していてくれた当時の手帳は本当に役立った。
そこに書かれていたのは、その日に起こった出来事はもちろん、
乗車した電車の便名と発着時間、購入したものの価格、
さらに、小田野さんの雑感も生き生きと描写されていた。
後日、図書館に出向いて当時の時刻表を確認すると、
まさに小田野氏の手帳に書かれている時間に
東京を出発し、目的地に到着しているのが確認できた。
本当に些細なことだけれど、その瞬間、何とも言えぬ、
ゾクゾクとするライター冥利を味わうことができた。
本書の第一章部分には、何カ所か小田野氏の手帳の引用がある。
さらに、小田野氏が保管していた当時の野球雑誌の引用がある。
こうした「事実」ひとつひとつの積み重ねで成り立っている文学が、
「ノンフィクション」というジャンルだ。
小田野氏のおかげで、僕の中のおぼろげなユニオンズ像が、
少しずつ肉づけされていく感触を得ることができた。
当時の新聞や雑誌は、しかるべき図書館に行けば、
閲覧することは何とかできる。
けれども、個人所有の「古い手帳」や「古いノート」は、
その人がきちんと保管してくれていることが第一で、
次に、それを見せてくれない限り、見ることはできない。
だからこそ、小田野氏のような几帳面な方には、
いくら感謝しても、感謝してもし足りないのだ。
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